グレイディーアの欲1

「はあ……」
 今日何度目かの溜息がドクターの口から漏れる。
 溜息をつくと幸せが逃げるというが、連日の会議で時間を取られ、デスクに向かえば書類やメールの確認と処理……。その合間に、指示を仰ぐオペレーターがやってきたり、遊びにくるオペレーターがいたり……。気づけば就業時間が終わり、ドロス艦内も静かな時間になっている……ということが、ここ最近多くなっていた。溜息が止まらないのも当然だった。
 パソコンに表示されている時計は二十一時半を表示していた。今日の仕事はいまいち捗らなかったな、と大きく背伸びをしたあとに、また溜息が出る。まだ書類は片付いていないが、急ぎの内容ではないしまた明日でいいかと思っていると、執務室のドアが二回叩かれた。
「どうぞ」と声をかけると、長身の白い女性が部屋に入って来た。白磁の肌、透き通る白い髪、それを引き立てるような黒い帽子と服。しゃんと伸びた背筋とヒールの高さも手伝って、頭が天井につくのではないかと思ってしまう。
 彼女が——グレイディーアがロドスに来てからしばらく経つが、交流という交流はあまりしていない。滅多に見かけることがなく、まさに神出鬼没という言葉がぴったりのオペレーターだ。ただその美しい姿は、見かければ目をやってしまう。存在感があるのに、見かけることは少ない。不思議なオペレーターだった。
 グレイディーアはそのまま真っすぐドクターの方へ歩み寄ると、「今晩、部屋を訪ねても宜しいかしら」と前置きもなく聞いてきた。
「構わないけど……、話なら今聞けるよ?」
「いいえ、ドクター。わたくしはプライベートな時間でお話がしたいのです。それでは、後ほど伺わせて頂きますわ」
 と、用件だけ伝えると、さっさと執務室から出て行ってしまった。
 プライベートな時間で話……。何か悩みでもあるのだろうか。

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